『ふる』西 加奈子著/河出書房新社
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池井戸花しす、28歳。職業はAVへのモザイクがけ。誰にも嫌われないよう、常に周囲の人間の「癒し」である事に、ひっそり全力を注ぐ毎日。だが、彼女にはポケットにしのばせているICレコーダーで、日常の会話を隠し録るという、ちょっと変わった趣味があった—。
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物語の前半から読み取れる、彼女の毎日
何とはなしに読んでいて、それでも其処に疑問は起きないのです。
その職業を選んだ事
その人と住んでいる事
その行為を繰り返している事
そうなんだなって、物語に馴染んでしまう自分が居るのですが
後半になると少しずつ、その事が、その理由たちが何気に散りばめられていて
読み進めていくうちに、自然と自分で文章の中から拾って物語のつじつまを合わせる事が出来るのです
ああ、そうなんだなって。
これ、読み終わって暫くしてから気が付きました。やられたぁ。
面白いけれど
はっとさせられて、切なくなったりします。
いつもの事ですが、いつも通りの反応をせざるを得なかった。
空から降るように、綴られている文字たち。
そこにはいつも、同じ名前の人が居たり。
自分と言うものを作り、相手と言うものを、考え。
でもこんな人っているだろうし、誰だって少なからずこんな考えは持っているのではないかなと、思いました。
レコーダーに記録して、その時間を反芻するよりはきっと
その場で思う事を相手にぶつける方が良い事はあるし
誰からも嫌われまいとし過ぎて結局、誰の心にも残らない事だってある。
自分の生き方を決めるのはその人の自由だけれども
好きな人には、自分の事を覚えていて欲しいよね、だから
好印象でもそうでなくても、爪痕は残してみても良いのではないかな。
自信持ってって、彼女には、伝えて欲しいなぁ
あの病院で出逢った、花しすちゃんだからこそ、これからを後押しできるような気がするんだよ。
奏