笑う門には福も来る

鈍間な主婦の気儘で憂鬱で有頂天な日常。

5000 ~ときめきは妄想の中に。

 

 

 

 

繋がらないのは承知の上だったけれど

いざ発信音だけを聴かされるとそれはそれで納得がいかない。

 

「・・・・じゃあどうしたいんですか」

隣の彼はそんな僕の態度に納得できない様子で

読んでいた本から視線を僕に移す。

 

その真っ直ぐな眼差しに一瞬躊躇うけれど

だってまだひさしぶりにこうやって傍にいるのは2年振りなんだから

分かって居るけれど真っ直ぐ過ぎて、眩しい。

 

「だから」

「はい」

あ、何だかちょっとめんどくさそうじゃない?

年上にその態度はどうなんだよ、と言う僕の気持ちを察知したのか

「はい、ちゃんと聞いてます」

組んでいた足を戻して居住まいを正し、再び真っ直ぐ僕を見詰める。

 

ちょっと待って

これはなんの時間だったっけ。

 

「だからさ」

「ユチョンと連絡が取れない事が厭なんですね?」

もしかしたら電話番号変えられているかもしれませんよ

そう言って彼は少し笑った。

 

どうして笑うの?

 

「もしかして・・・・」

「新しい番号です」

 

えええええええええ!?

自体が呑み込めたようで全く展開についてゆけていない僕を尻目に

チャンミンは自分のスマートホンを操作してユチョンの新しい番号が表示された画面を僕に差し出す。

しかもプロフィールの写真が

 

「ああユチョンの写真あたらしいよ!?」

「火曜日に一緒に珈琲飲みましたから」

多分その時に、あの後映画を観たから。

しれーっと。本当に何気ない雰囲気で僕に詳細を伝えるチャンミンだけれど、肩が。

 

「・・・笑ってる?」

僕を面白がっているとしか思えない。

 

「・・・ユチョンが」

くくくとうつむきつつ口元を手のひらで隠しつつ、その時の事を話してくれた。

チャンミンに会う前日に、ユチョンは新しいスマートホンを入手した。

誰からも干渉されない、自分だけの家族も知らないプライベートな連絡手段が欲しかったのだそうだ。

 

「それって・・・」

「僕は何も言いませんから」

そこは口を閉ざすチャンミン。きっと色んな相談を聞いていたのかもしれない。

僕は前だけを見詰めすぎてしまって気付けずにいた。

あの腕の意味も聞けないままでいる。本当は幸せなのかどうかも。

チャンミンは、聞けたのかもしれない。でもそれを今僕が聞くのは、きっとルール違反だ。

 

「うん」

受け取ったスマートホンに表示されている番号。見詰めていてはたと気が付いた。

「僕が電話して・・」

「大丈夫です」

後でユチョンから登録してもらうと良いですよ、ヒョンの電話にも

さらりとどきりとする事を言って、彼はまた本に視線を落とした。

 

「登録くらい自分でできるよ」

多分、と最後に心の中で付け加え、発信ボタンを押す。

長い間待ったような気がしたけれど、後で到着したユチョンが言うには

「携帯持ったまま着信を待ってた」らしいので

本当は前々待たされていなかったようだ。

 

何処かのニュースで観た、その時の挨拶のユチョンからは少しシャープになって居た。

うつむきがちに少しはにかんで笑っていた。

引き寄せて抱き合うと、僕の方でほんの少し泣いているみたいだった。

 

今日というこの日に

みんなの予定が空いていること自体が奇跡だねって、笑った。

 

ジェジュンが余りに一生懸命キッチンで料理に取り組んでいるから

「大丈夫?」

手伝おうとしたら

「絶対にこっちに来ないで!」

鬼の形相で拒否されてしまい悔しかったので

「でも僕も独り暮らし初めて少しは出来るようになったんだよ!」

遠くから主張はしたけれど

「手伝えるレベルの技術ではありませんよ」

チャンミンにそう言われると確かに納得の僕だった。

 

キッチンに立つその姿は言葉に出来ない安心感があって

あの頃の僕たちが如何に幸福であったのかを今また思い知っている。

 

楽しく近況などを話しているはずがいつの間にかユチョンはソファで眠っている。

チャンミンがそっとブランケットを掛けてあげる。

キッチンのカウンターでジェジュンの手際の良さに見惚れながら

ジュンスは元気かなって頑張る仲間に想いを馳せる。

 

あの頃住んでいた5人のマンションと同じくらいの広さに

今はぼくひとりで住めるほどになって居る。

街を一望できる高さのこの場所を独り占めしている事は

光栄でもあり、寂しくもある。

皆でデリバリー食べたり、頭付き合わせてゲームをしたり

そんな些細な日常があの頃の僕を支えていたんだなって

今なら分かる、泣きそうになるくらい思い知っている。

 

チャンミンが薦めたから決めたダイニングのテーブルに

ジェジュンの料理が並ぶ

丁度のタイミングでユチョンが目を覚ますから

「流石の嗅覚」だってチャンミンが冷やかす。

 

チャンミンの声が、聞こえる。

 

 

「・・・・・・ヒョン?」

事務所に着きましたよ。

僕の肩をそっと揺らし、覗き込む愛しい眼差し。

 

「・・・・・・・ああ」

ありがとう。そう言って僕の方に乗っている優しい手のひらを握り返す。

 

車を降りると、沢山の人。

社会に戻ってから繰り返される、愛しい日常。

誰かが言う、ボードのようなものを掲げてくれている人も居る。

 

「5000日おめでとう!」

 

東方神起

確かにそう書いてある。

東方神起、僕らの事だ。

 

ぼんやりしている僕を伺うようにしてチャンミンが後ろに回る

会釈をしたり、手を振ったり

僕は日常の僕を取り戻し、振る舞う。

 

建物の中に入りエレベーターを待つ。

「5000日ですね」

「だったね。だから・・・・」

「だから?」

「何でもない。呼ばれたのってお祝いとかかな?」

何だったっけ?続ける僕にチャンミンが苦笑い。

それもあるかもしれませんが、元々は、そう言って今日の予定を教えてくれる。

聞きながら思い出す。思い出しながら彼らを想う。

 

夢を見たのはきっと、昨日のメールの所為。

「5000日だね。これからも頑張ろう」

何てこと無い一文と、自撮りの画像。

傍に居なくても、近くに感じる事が出来る。

今日は何処にいるって書いてたっけ?思い出そうとするけれど

「聞いてますか?」

本当に今日はどうしたんですかって僕を覗き込んで笑う。

誰かが準備してくれた珈琲を僕にくれる。

今の僕の、一番近しい笑顔。

よく思い出せない夢の内容は、彼の笑顔に上書きされる。

 

東方神起

それは僕らの事。

今は二人だけれど、始まりは5人だった。

5人で始まったんだ。

 

夢で見たはずのユチョンの笑顔も

美味しそうなジェジュンの料理の匂いも

今はもう思い出せない。

でもそれが現実で、今の東方神起なのかもしれない。

 

僕はここで続けるよ

5000はきっとこれからも更新される。

今は二人で、ちゃんと更新してゆくから。

 

いつかの数字を5人で迎えるのも悪くないと思わない?

 

ジェジュンにメールの返信をしていない事に気付いた。

こうやって送ったら

なんて返事が返って来るかな。

 

「一人で笑わないでください」

いつの間にか隣同士で着座して居たチャンミンが気味悪そうに言ってきた。

確かに僕は今ニヤニヤしていたかもしれない、だってさ

これからの東方神起がどうなるのか

2人じゃなくなったら面白いんじゃない?

 

何てことは今目の前にいる偉い人たちには言えないけどさ

僕が想像するだけなら

ジェジュンにメールするだけなら

きっと大丈夫。

二人だけの妄想なら、世間の平和はきっと保たれる。

 

続ける事で、僕たちは進んでこれた。

傍に居るチャンミンと視線を合わせながら、今を噛み締める。

そしてこれからを想う。

 

「今日は大丈夫。一人で家に帰るよ」

今日の僕の怪しい雰囲気に心配そうなチャンミン

そんな時こそ、僕はしっかりしないといけない、と思う。

 

一人部屋に戻り、メールを打つ。

シャワーを浴びて、家族が作りおいてくれた食事を温め直す。

準備をしながら、夢に見た景色を思い返している。

 

あの頃の不安な日々に今は想像できなかったこの日常。

だから今想像出来ない事もこれから起こりうるって事だ。

成し遂げる事が出来る僕らだから

きっと大丈夫。

 

今日は何をしているのかな

目の前に居ない3人の事を考える。

メールの着信音が鳴る。

温め直した食事はそのままに送信元を確認。

 

「・・・ジェジュン

さっきの僕の提案に彼はどんな言葉をくれるのだろう。

6000日目を僕らはどのように迎えられるんだろう。

 

 

沢山の想いが過ぎる

それは僕らだけではなく、僕らを想ってくれる人たちだってそうだ。

その想いが100㌫重なる事はないかもしれないけれど

いつだって僕たちの見方でいてくれる事

これからも信じて、東方神起は進んでゆくんだ。

「僕たちみんな」の、夢を乗せて。

 

 

 

 

 

 

 

HappyTVXQ!

(こんな表現でおけ?)