笑う門には福も来る

鈍間な主婦の気儘で憂鬱で有頂天な日常。

「とにかくうちに帰ります」湯村記久子著

 

うちに帰りたい。切ないぐらいに、恋をするように、うちに帰りたい――。職場のおじさんに文房具を返してもらえない時。微妙な成績のフィギュアスケート選手を応援する時。そして、豪雨で交通手段を失った日、長い長い橋をわたって家に向かう時。それぞれの瞬間がはらむ悲哀と矜持、小さなぶつかり合いと結びつきを丹念に綴って、働き・悩み・歩き続ける人の共感を呼びさます六篇。

 

 

■□■□■□■□■□

 

 

何気ない。

本当に何気ない日々がこの本の中には綴られて、いて。

そうそう、こんな事あるよね

あ、やっぱり皆そうなの?

あの人もこうやって悩んでるのかな

いや、これはやりすぎ

え、こんな人居たらちょっと無理

などなど、さりげない文章に

胸が苦しくなるほど、共感したり

応援したり

その後が知りたくなったり

まあ頑張れよって思ったり

もう知らんし、って物語なのに、突き放したり

微妙に心が揺れる物語たちでした。

 

最後の、表題作。

雨の日の鬱陶しさや、諦め

濡れた時の湿り気や感触

体温を奪われてゆく過程や

突然湧き起こる諦めの心境。

どの気持ちも分かって、私も家に帰りたくなったし

あの彼は明日、自分の子どもに会えると良いなと、願った。