うちに帰りたい。切ないぐらいに、恋をするように、うちに帰りたい――。職場のおじさんに文房具を返してもらえない時。微妙な成績のフィギュアスケート選手を応援する時。そして、豪雨で交通手段を失った日、長い長い橋をわたって家に向かう時。それぞれの瞬間がはらむ悲哀と矜持、小さなぶつかり合いと結びつきを丹念に綴って、働き・悩み・歩き続ける人の共感を呼びさます六篇。
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何気ない。
本当に何気ない日々がこの本の中には綴られて、いて。
そうそう、こんな事あるよね
あ、やっぱり皆そうなの?
あの人もこうやって悩んでるのかな
いや、これはやりすぎ
え、こんな人居たらちょっと無理
などなど、さりげない文章に
胸が苦しくなるほど、共感したり
応援したり
その後が知りたくなったり
まあ頑張れよって思ったり
もう知らんし、って物語なのに、突き放したり
微妙に心が揺れる物語たちでした。
最後の、表題作。
雨の日の鬱陶しさや、諦め
濡れた時の湿り気や感触
体温を奪われてゆく過程や
突然湧き起こる諦めの心境。
どの気持ちも分かって、私も家に帰りたくなったし
あの彼は明日、自分の子どもに会えると良いなと、願った。
奏