笑う門にも福は来る。

鈍間な主婦の気儘で憂鬱で有頂天な日常。

「気をつけ、礼。」重松 清









「気をつけ、礼。」重松 清



僕は、あの頃の先生より歳をとった―それでも、先生はずっと、僕の先生だった。受験の役には立たなかったし、何かを教わったんだということにさえ、若いうちは気づかなかった。オトナになってからわかった…画家になる夢に破れた美術教師、ニール・ヤングを教えてくれた物理の先生、怖いけど本当は優しい保健室のおばちゃん。教師と教え子との、懐かしく、ちょっと寂しく、決して失われない物語。時が流れること、生きていくことの切なさを、やさしく包みこむ全六篇。 




 読み終えて、一つ一つの物語のどこかにいつかの自分を探してしまう1冊でした。





白髪のニール


 転がりつづけること。

 生きぬくこと。

 センセ、ぼくはロールしよりますか。キープ・オン・ローリングしよりますか。

 止まってしもうとっても、もういっぺん動き出したら、まだ間に合いますか。



 いきなりギターを教えてくれという。しかも動機は「子どもが生まれるから」

 夏休みに聞かせてもらった「ニール」とさえない教師の青春。

 夏休みが終わると教師はやっぱりさえない白衣。

 それでもどこかに、心の隅に何かを残した夏休み。

 本当に大事なことって、授業だけではきっとわからない。



 大人になると誰だって思う事がある。ワタシだって何度だって立ち止まったし、今もロールしてるかなんて分かんない。

 でも、背中を押してくれる思い出があると、ちゃぁんと一人でも踏ん張れる気がした。



 ハイ、始めから泣いてしまいました^^;





ドロップスは神さまの涙


 カワムラさんと たっちゃん。そしてヒデおば。保健室でドロップスをもらう。



 ごっこの鬼につかまった。ずっと必死で逃げてきたのに、おいつかれた。

 「意地悪をされる」そう思っていたかった。違う。ワタシは弱くない。

 そんなカワムラさんにヒデおばはちゃんという。「それをなんて言うのか知ってるでしょう?」

 

 逃げていては、いけない。



 許すか許さないかはまだ決めてない。ゆるしても、忘れない。たぶん一生。

 ・・・すごく分かる気がした。なんとなくだけど。

 

 そっけないヒデおば。

 でも、ちゃんと見ていてくれる。分かってくれてる。

 しんどくても平気な様に頑張ってること、そんな気持に寄り添ってくれている。



 だからたっちゃんはちゃんと学校に来れた。カワムラさんは現実と向かい合えた。

 緑の缶の ブドウ味。

 ワタシにもくれないかな。





マティスのビンタ


 ぶたれたのは左ほほだったのに、記憶の底から浮かび上がる痛みは、胸の奥にあった。



 聞きたいことを答えてくれる人はもういない。

 言いたいことは謝罪なのか、それとも。

 それでもやっぱり 会いにゆけたことは、良かった気がしました。





にんじん


 万が一の想像をめぐらせて密かに固める拳で、まっさきにほほを打たれなければならないのは、ほんとうは私自身なのだ



 学校・・・たくさんの出会いがあって、それぞれの思い出がある。

 こんなことも、あると思う。



 切ないけど、たしかに。でも。

 人って未熟なんだなって、先生ってこんなもんだよねって。反面安心したりもしました。

 その出会いで、何かを学ぶことも出来るのかも。





泣くな赤鬼


 もしも奇跡が起きて、人生の残り時間がうんと増えるのなら、おまえは教師になれ。私がお前に言ってやれなかった「惜しい」の一言をお前のような生徒に何度でも贈ってやってくれ



 かつての生徒に再会し、かつての自分と今の自分をくらべる。

 見放した生徒の成長。彼らとの思い出。あの時の言葉。



 生徒の残された命と向き合う時、先生は何を思うのでしょうか。

 切なかったけど、なんだか「あぁ良かったなぁ」と そう思ってしまえる物語でした。





気をつけ、礼


 目をそらしてしまうのは心が弱いからで、弱い心でしゃべる言葉はビシッとしていないから、つっかえてしまう



 人前で話す機会を与えられるたびに、自分が何かに許されている気がして、自分も出来るだけ多くのことを許したい、と思う。



 表題作。



 少年はどもる。それをはっきりと指摘し「背筋を伸ばして!」叱責するヤスジ。

 だれも何も言わず、聞こえないふりをしてやりすごすのに、彼は違う。

 でも彼から言われると、どもりはひどくなくなる。



 ヤスジが消えると またどもる。どもるからしゃべらない。

 しゃべらなくていいように相手を睨む。通じないと暴力をふるう。

 そんな悪循環。



 ヤスジ。いいなぁ。こんな人、いるといいな。(借金は別として)

 少年には ヤスジが必要だったのに。



 「気をつけ、礼」

 何気にしているようで、でも。本当はキット、とっても大切な一瞬。