笑う門には福も来る

鈍間な主婦の気儘で憂鬱で有頂天な日常。

「ちゃんちゃら」・朝井 まかて (講談社文庫)

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江戸・千駄木町の庭師一家「植辰」で修業中の元浮浪児「ちゃら」。
酒好きだが腕も気風もいい親方の辰蔵に仕込まれて、山猫のようだったちゃらも、一人前の職人に育ちつつあった。
しかし、一心に作庭に励んでいた一家に、とんでもない厄介事が降りかかる。青空の下、緑の風に吹かれるような、爽快時代小説。



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思った以上に痛快で
思った以上に心に残る

こんな師匠が欲しいと思うし
こんな仲間が欲しいと思うし
こんな憧れが欲しいと思うし
こんな恋がしたいと思う

軽快で切なくて朗らかな夢心地

初読みでしたが、噂通り
今まで読めていなかったことを後悔!

慌てて既刊本をチェックしててまたもやきづーーーく!

「ぬけまいる」もか!
あぁぁぁやっぱりちゃんと調べておくべきだったじゃないかワタシぃぃぃぃ



ふぅ


序・終章含めまして7章から成っております長編

「ちゃら」と呼ばれる庭師見習いの青年と
彼が住み込んでいる辰造、娘のお百合とそこに住まう庭師の人々
友の五郎太、伊織
庭を持つ人々




お庭を造る意味が分かったり
お庭の仕組みが分かったり

お庭に込められる意味が分かったり

大好きな時代物で、庭師さんものは初めてだと思う
濃い緑のにおいと
土から立ち上る湿り気
またそれらを含む優しい風がワタシの周りを吹いているようでした

閉じ籠りがちな冬の日に読むにはとても良い物語でした



贅の限りを尽くしても
手に入れた庭を前に寛ぐことの出来ぬ豪商
名もない雑木をささやかな敷地に植える事だけで
故郷の風景を取り戻すことの出来た老夫婦

我が家を如何に構えるのか
家なんて持ってないですけどね
ワタシならどうするだろうな
そんなこともふと考えました

人から見てどうなのか
自分にとってどうしたいのか
難しいものです


物語の大筋は
辰造に逆恨みを持つかつての弟子仲間が
その名前を変え京より江戸へやって来て怪しい家元を名乗る事から始まるのですが
それがなんとお庭ごとだけではなく阿片にまで関わってくるというww

なんとーーーー!!

ついつい
ゴメスを思い出しちゃったワタシ・・・・(金春屋ゴメス芥子の花参照ww)


乗り込んで退治しちゃうあたりも痛快でセオリー通りな感じで好きでしたが
最後のもう
あのくだりがなんかもう、この作家さんならではなの!?どうなの!?

あんな感じで終わられちゃうともう
分かってはいるけれど
その風景だけが浮かんで、その後を勝手に独りで想像して

泣けるって言う・・・・・

ワタシの大好物な感じで物語は終わるのです



あーーーー
好きだなぁ

展開とか設定とか
表現とか、好き。

崩れてない程度の読みやすさが心地よいと思いました。はい。
他の作品も読もう
今すぐ本屋さんへ行きたい!

読みやすさの中にも
心に残る表現がそこかしこに在って、例えば


「そんな辛い辛い郷里の風景が、今はこんなにも懐かしい。ちゃらさん、生きてるってええもんですな。
ほして、死ぬのもええもんやと思いますわ。
皆、死ぬために生きてる。いつか死ねるから、生きてられる。
この世におるのもあと少しやと思うたら、どんなに辛かったことも懐かしいもんになる」


本当は故郷にはいい思い出なんかはないけれどと言った長吉さんが
それでもちゃらのこしらえた庭の風景に故郷を重ね呟いた言葉。

庭を造る意味を考えるちゃら
庭を造るために雑木林が丸ごと刈られてゆくのに疑問を抱くちゃら
病に動けぬ人たちと庭を造ろうと動き出す辰造

ものの本質とは
本当の意味と言うのは
意外なところから顔を出すものですねぃ





ワタシの「今」にちょうど良い物語でありました、幸せ。